丁寧な暮らし方をされているお住まいを訪問しました。 2020年09月24日
コロナの脅威が少し弱まるころ、メンテナンスの相談がありました。
Ms建築設計事務所では、1年、5年、10年とメンテナンスを行います。
住まい手さんのお悩みを聞くだけではなく、
住み心地についてもお聞きすることができるので、とても貴重な機会です。
今回は2010年に、故・三澤康彦さんが設計し、竣工した芦屋のお住まいを訪れました。
ちょうど10年メンテナンスになります。
住まい手の奥様はピアノの先生をしてらっしゃいます。
1階の玄関入ってすぐは、ピアノのレッスン室になっていますが、
入って正面にはとても印象的な木製の壁が、と思いきや、
なんと自宅とレッスン室を仕切る、大きな引戸でした。
生徒さんたちも最初びっくりされたそうです。まさか扉とは!と思うほどおおきな引戸なのです。
レッスン室の壁が同じ形状なので、ひとつづきの壁と思ってしまいます。
印象的な空間に驚いたのはもちろんですが、年月を経ても美しさが保たれている様子に、
住まい手さんの丁寧な暮らしが伺えます。
メンテナンスしてほしい場所などを、実際にお家を巡りながらお話を伺います。
外回りを巡っていると、素敵な傘立てを発見!
住まい手さんが、この家に合う傘立てを色々探して、
市販では見つからす、ご自分でデザインされ、特注で製作されたものだそうです。
石の傘立てはシンプルですが、お家の雰囲気にとても良く合っていました。
ピアノ教室の生徒さんにも好評だそうです。
他にも、住まい手さんの素敵な工夫を発見しました。
キッチンに行くと、シンク下に、焼きを入れた木の箱を、ゴミ箱と、レジ袋入れに使用されていました。
使いやすい寸法をじっくり検討されて、ご自分でデザインしたそうです。
木の風合いと、シンプルなデザインが、造作のキッチンにとてもあっています。
あまり人目につく場所ではないところですが、素敵な収納をされていて、勉強になりました。
お家に似合うものを探していると話す様子は、とても楽しそうで、住まいへの愛情を強く感じます。
お悩みだけでなく、住み心地についてもお聞きすることができました。
生活しているうえで、良かったことは、リビング、キッチンの床の大理石だったそうです。
最初はどうかな?と思ったそうですが、汚れてもすぐふけるのでメンテナンスもしやすいとか。
夏はひんやりして、気持ち良いそうです。実際の体験を聞けるのは、とても貴重なことです。
お庭も素敵でした。ご家族とともに成長した木々は、お家をやさしく彩っています。
今回の訪問で、住まい手さんが愛情を込めてお家を育てているのが伝わってきました。
そのお手伝いができるメンテナンスの重要性を感じた、1日でした。
Msスタッフ濱田
内部情報:三澤文子 新刊本の予定 2020年09月18日
非常勤&リモートワークの村上です。Msの代表・三澤文子が新刊本を出すらしいという情報を入手したので、Zoomインタビューしました。本日はいち早く、Ms日記をご覧のみなさんに本の内容をお知らせします。
タイトル:過去との対話をデザインする Ms住宅改修の仕事
タイトルの通り、改修をまとめた本です。住まい手が「建て替えでなく改修」を決意するときには、建物に対して深い思いがあります。三澤がその住まい手の思いを、ショートショートストーリーに仕立て、10軒の住宅を紹介します。
春庭のすまい 撮影:畑拓さん
10軒の住宅を1章に2軒ずつ、5章のショートショートストーリー。お施主さんや木の家の改修を考えている方々に気軽に読んでいただけます。6章には改修の方法論を入れて、建築のプロの実務に役立つよう構成されているとのこと。
四恩庵 撮影:畑拓さん
出版にあたり、写真も畑さんに改めて撮影していただき、改修後に住まい手が重ねた生活の記録が見えるようにしました。
新築と改修、どちらも仕事にかける気持ちは同じ。何もない状態から作り上げる新築には「美しく生み出したい」という自己満足(三澤談)ともとれる感情があります。改修の場合はゼロからのスタートではないけれど、その建物を最初につくった作り手と対話しながら仕事を進めていく、新築にはない「ひと手間」がかかります。
自適荘 撮影:畑拓さん
Msの改修では、新築と同様、長期優良住宅の等級3を目指しています。また増築がある場合には、時間の経緯がブツッと切れてしまわないように、古い部分と新しい部分の分量バランスを考えます。
ちょっとした寸法、ディテールをきめ細やかに、また色を重視して塗装を選ぶといった意匠のデザインに加え、耐震や温熱といった性能もできる限り向上させるためには、「落としどころ」を見つける目が必要です。
この本は、その「落としどころ」を見つける目を養うための教科書でもあります。
昨年出版された、三澤康彦の仕事 「木の住まい」をデザインする のあとがきに、康彦さんが「木の家づくりの教科書」と題した本の出版の仕事に取りかかっていたことが書かれてあります。それはMOKスクールの教科書にもなり得る本だということで、康彦さんは力を入れていたそうです。
いま文子さんが執筆中の本は、康彦さんが取りかかっていた本が形を変えて、住宅医スクールの副読本になろうとしています。
岐阜ふくまちや 撮影:Ms 中尾瞭允
2020年の住宅医スクールは6月にスタートのはずでしたが、コロナの影響で今年は中止に。新刊本には、毎年第一回目の第一講義で文子さんが話す概論を入れて、スクール開始に合わせて出版する予定でした。それが移動自粛の影響で撮影もストップし延期になっていました。
ですが、2021年度の住宅医スクールの1月開講が決まり、それに合わせて副読本として出版することになったのです!!
今まではスクールの講義や全国での講演会で、スライドと印刷物で紹介していた実例の詳細を、この本で取り上げる可能性も出てきたようです。
改修では外観からは全く設計者の仕事が見えない場合があります。また改修における「ひと手間」がかなりの比重を占めるため、改修を好まない建築関係者もいるなかで、住まい手の物語を完成させるために助力しようとするプロには、必携の一冊になることでしょう。
文子さんの執筆作業も佳境に入っているようです。みなさんからも本が楽しみだと励ましていただけますと、大きな力になると思います。応援どうぞよろしくお願いいたします!
村上洋子
観る目を養う 2020年09月11日
日々の設計の仕事から離れ、本日は、普段では経験できないお仕事をさせていただきました。
プロカメラマンの撮影アシスタントです。
そんな今日、設計者目線ではなく、カメラマン目線でMsの設計を観察しました。
普段と違った視点で建築と向き合え、非常に観察眼が養われた一日となりました。
岐阜市の川原町にやってきました。
建築写真家の畑拓さん。Msの数々の竣工物件を撮って頂いています。
必要に応じて物を移動させ、サッシの開閉で光の入り方を調節するのが今日の私の仕事です。
午前9時。撮影が始まりました。
生憎の天気ですが、ここから、昼ご飯抜きで一気に撮っていきます。こちらの家は古い借家を改修したもので、文子さんが京都造形芸術大学通信大学院で教鞭を取っていた時、学生達の改修設計課題のモデルに使用されました。
当時学生達の案が思いの他盛り上がり、改修プロジェクトが実現されたそうです。
住まい手さんは、漆教室を実施されており、こちらの写真は漆教室として実際に使用されている部屋です。
前面道路に大きく開いたサッシを開けると道行く人々の注目の的になる空間です。
ここで、畑さんが写真の点景に漆作業をしているカットが欲しいということで、私が生徒として漆研ぎの体験をさせていただきました。
漆を特殊な炭で研いでいきます。炭で研ぎ、漆を塗る、この繰り返し作業によって、作品が出来上がります。
漆を研ぐ感覚を擬音語で表現するならば、シャリシャリといった感覚でしょうか?
何とも言えない感覚が気持ちよくて、夢中になってしまいました。ディティ―ルを撮る畑さん。
構造材に焦点を合わせ、寄って撮る姿が、獲物を狙う肉食動物の如くカッコよくて、
思わずディティールってどう撮るんですか?
と聞いてしまいました。
例えば・・・木造建築は柱間が制限され、
大スパンを飛ばすことができないのが空間造りの難しいところです。
ここでは棟木にかかる垂木がキッチンを仕切る杉パネル(赤印)によってその連続性が失われています。
畑さん曰く、この杉パネルを隠して撮り、どこまでも連続しているように錯覚させるそうです。
寄って取るディティ―ル撮影のコツを知ることが出来ました。今回撮影の締めは夜景の撮影です。
この日の岐阜市の日の入り時刻は18時15分でした。
夜景の撮影は日の入り後、30分間という限られた時間の中で勝負が行われます。
昼間の撮影であらかじめ撮影ポイントを数か所決めておき、30分で一気に夜の表情をファインダーに納めていきます。
一層、撮影アシスタントの仕事に緊張感が増します。
夜景の撮影が終わり、一息着いたとき外を見るとアウトドアランタンのようなものがぶら下がっていました。
これはバードフィーダーというもので、中に野鳥のエサが入っています。
聞くところによると、住まい手さんがイギリスへ旅行に行った際、朝食の時間にバードフィーダーに寄って来る野鳥を観ながら食べるのがとても優雅な時間で、
それを自宅でも再現したかったそうですが、未だに一羽も寄ってこないそうです。
撮影アシスタントは非常にエネルギーを使うお仕事でした。
しかし、一日アシスタントを通して写真の構図に撮影者の意図が垣間見えるようになった気がします。
新しい視点が見つかり、建築雑誌を見るのが楽しくなった限りです。
これからも、Msの竣工物件の撮影に携わる機会が増えると思います。
次の畑さんの撮影アシスタントのお仕事が楽しみです。
また、今回畑さんの撮影した写真は、またの機会にMs日記に登場します。
ディティ―ルの写真など構図に撮影者の意図を見つけながら写真を観察するとまた違った表情が見えてくるかもしれません。
是非注目してMs日記をお楽しみにしてください。
Msスタッフ中尾
ポーチから広がる輪 ~豊中・和居庵/1年メンテナンス~ 2020年09月05日
9月に入りましたが、まだまだ暑い日が続いています。
竣工後1年のメンテナンスにて、豊中・和居庵を訪問しました。
Ms事務所から車で15分。
シンボルの松の木と、木塀による街並みがつくられています。
1年メンテナンスでは、
施工して頂いた、キサブロウ;沖本さんと共に、
建物の外部、内部、床下まで、異常がないかぐるりと見て廻りました。
幸い、大きな異常は見られませんでしたが、
門扉の格子戸が、湿気で膨れて開閉しづらい状態でした。
沖本さんがすぐに調整して下さり、塗装でタッチアップを行いました。
その他、利用頻度の高い、外廻りの天板の汚れは、
サンダーで削った上で、オイル塗装をやり直しました。
住まい手さんによると、
『リビングの掃き出し窓は、日常的に出入りしており、ほぼ玄関です!(笑)』とのこと。
これから、下足箱の扉もメンテナンス調整を行う予定です。
さて、
豊中・和居庵の大きな特徴は、このポーチです。
門扉からスロープを上がると、リビングに直接入ることができます。
大きな庇をかけることで、庭と生活空間をやわらかく繋いでいます。
ポーチの一角に、陶器のコップ類を発見しました。
なんと! 住まい手さん自ら製作されたものでした。
<ポーチ=創作の場となっているようです>
経緯を尋ねると、
『トイレの"洗面ボウル(ITOIボウル)"が気に入って、製作者である"糸井康博さん"の陶芸教室に通っています』
との嬉しいコメントを頂きました。
糸井康博さんは、奈良県在住の陶芸家です。
定期的にMs事務所を訪問してくださり、上写真は、この8月に来所された際の様子です。
三澤文子とは、20年来の付き合いです。
三澤が大阪芸術大学で教鞭を取っていた時期の教え子にあたる(当時は、建築を学んでいたようです)と聞いています。
糸井さん製作のITOIボウル<Ms定番>は、松やカシなどの天然灰の釉薬を使っており、多くのファンがいます。
全国で個展を開催されているので、ご存じの方も多いかと思います。
(写真:畑拓氏)
今回、思いがけない形でポーチを利用して下さっている様子を拝見し、とても嬉しかったです。
住まい手さんのいきいきとした表情も印象的でした。
これからも、人の輪を広げていくような、豊かな空間をつくっていきたいと思います。
上野耕市